信託財産の不動産売却手続き
2024/11/13
弊社ではご家族間の民事信託による契約、登記手続きのサポートを行う事例が増えています。本稿では、民事信託に基づいて受託者が不動産を売却する際に必要な登記手続きについて詳しく解説します。信託財産の売却は、受託者が持つ法律上の権限と責任が大きく関わる重要なプロセスです。売却する際には、不動産の登記情報を正確に把握し、必要な書類を整えることが求められます。また、信託契約の内容や法律に則った適切な手続きが不可欠です。司法書士としての視点から、このブログでは、売却にまつわる一連の手続きを分かりやすく説明し、法的な注意点や実務上のポイントも取り上げます。
目次
信託財産の不動産売却!まずは受託者の役割を理解しよう
信託財産の不動産売却において、まず重要なのは受託者の役割を正しく理解することです。受託者は信託契約に基づき、信託財産を管理・運用する責任を持ちます。弊社で家族信託の契約を提案する案件はほとんどの場合、不動産の安全な管理、処分を目的とするものが多く、信託された不動産を受託者が売却(処分)するということがあります。受益者の不動産の売却は、信託の目的のために、委託者との間で締結された信託契約の条項に則って、手続きを進めていきます。手続きの際には、まずは登記情報を確認し、対象の不動産の登記の現状を把握する必要があります。また信託目録に信託条項が登記されていますが、詳細については「公正証書記載のとおり」と表現を避けて登記する傾向があるため、準備の段階において、信託契約公正証書の内容について詳細を確認しておくことが大切です。
不動産売却のための登記手続き
次に実際の登記手続きがどのようになるかを検討することが非常に重要です。受託者が不動産を売却する場合、多くの場合、不動産を換価し、信託財産が金銭に変わることを指しますので、信託登記を抹消します。所有権移転は年月日売買、信託登記抹消は信託財産の処分、という原因になります。その次に確認する必要があるのは、受託者と委託者、受益者の住所、氏名に変更がないかどうか、という点です。受託者に住所変更がある場合、登記名義人の住所変更登記を行います。さらに、信託目録中にも受託者の住所は受託者に関する事項にて登記されていますので、信託目録の登記記録の変更を行う必要があります。さらに委託者、受益者の住所、氏名に変更がある場合は、受託者のときと同様に信託目録の登記記録を変更する必要があります。また多くの場合、当初受託者、受益者の氏名住所は信託条項にも記載がありますので、前述までの変更に伴って職権にて変更されるものではないため、信託条項の変更も行う必要があります。そこまで準備を行って初めて信託財産の処分の登記を入れることになります。もし上述した住所変更登記を申請しない場合は所有権移転登記と信託抹消の登記は却下されることとなり、適正な不動産登記の売却手続きを完了することができません。十分に注意検討致しましょう。
信託契約の内容を確認して、スムーズな売却へ向け準備しよう
信託契約の内容を確認して、スムーズな売却へ向け準備しましょう。信託財産の管理方法ということで信託財産の処分や管理方法が信託目録に記載されていますが、多くの場合受益者保護のために、信託財産を換価処分、取壊しをするときは受益者又は受益者代理人の同意を得る、と定められています。 この文言が入っている場合、所有権移転登記及び信託の抹消を申請する際には受益者または受益者代理人の承諾及び印鑑証明書が登記申請の添付処理として必要になります。他にも信託契約の段階で受託者の権限が大きくなり過ぎないように規制をかけておくケースがありますので、信託法の理解もさることながら、信託契約の細部まで確認をしておくことが必要です。基本的に信託条項は信託目録に記録されている状況なので、信託契約公正証書は登記申請の必要書類には含まれません。
信託財産の売却手続きに関連する他の注意点
信託財産の不動産売却手続に関連する他の注意点についても言及したいと思います。受託者の信託財産の処分によって信託される財産が「不動産」から「金銭」に変化します。信託受託者の義務として分別管理義務があるため、必ず売却した後の売却代金は、信託口座へ入金することになります。またそうして受け取った金銭は信託契約の目的に則って、受益者のために受託者が管理運用処分していくことになります。一方不動産に関するもの、例えば入居者との賃貸借契約や鍵、備品関連の取扱説明書や境界確認書などは信託財産として不動産は処分したので、新しい権利者となった買主に引渡しを行います。受益者に対して報告する義務がありますので、取引によって必要であった仲介手数料、登記費用、売買代金の領収書や固定資産税の精算金家賃の精算金などの詳細については控えをとり、後日まとめておけるようにしておく必要があります。
受託者が知っておくべき不動産売却の法的注意点
受託者が不動産を売却する際には、注意点として言及しておきたいのは税金の問題です。民事信託は主として「受益者」を財産の所有者とみなして課税が発生する仕組みになっています。不動産を売却すると当然譲渡所得が発生しますが、受益者に課税が発生する場合も通常の不動産売買で生じる譲渡所得と同様の注意点になります。通常個人の場合、信託の計算の期間を1年として1月1日から12月31日としておくことが多くありますので、通常の確定申告の時期に譲渡所得の申告を受益者の名前で行う必要があることを覚えておきましょう。
信託財産の別の手続「受益権の譲渡」
このコラムでは信託された不動産を売却する際に受託者が注意する点として登記手続きを中心に記述して参りました。一方で信託の効能の1つに債権化機能というものがあり、信託することで不動産そのものから受益権という債権に変化しています。そしてその受益権を売買し、その後信託契約を解除することで不動産の所有権移転を発生させるという手続きがあります。この場合も受益者課税となりますので、課税においては大きな違いがありませんが、登記手続きについてはこれまで記述してきた方法と全く違う登記になりますので注意が必要です。いずれの場合も、司法書士は、登記手続きの専門家であり、後見業務に近い性質のある民事信託業務は我々の得意な分野です。昨今様々なご家族関係、様々な財産管理方法がありますが、是非一度お気軽にご相談下さい。スムーズな不動産管理そして将来必要な時にはスムーズな不動産の売却が実現できるでしょう。