遺産分割協議書作成のポイント
2024/11/20
遺産分割協議書は、相続において非常に重要な役割を果たします。相続人同士の合意を明文化することで、トラブルを未然に防ぐ効果があります。適切に作成されていない場合、後々の紛争や手続きの遅延を招くこともあります。本ブログでは、遺産分割協議書の正しい作成方法や注意点について解説します。まずは、遺産分割協議書の意義と必要性を理解し、続いて手続きに必要な表記の仕方、注意すべきポイントをまとめます。遺産分割協議書作成の際の参考になりましたら幸いです。
目次
遺産分割協議書の意義:相続人の合意がなぜ重要なのか
遺産分割協議書は、相続人間での合意を明文化する非常に重要な文書です。その役割は、将来的なトラブルを未然に防ぐだけでなく、相続手続きを円滑に進めるためにも欠かせません。相続人全体が承認した内容が記載されていることで、後日異議を唱えることが難しくなります。 特に、遺産の内容や相続人の状況によって、協議書の内容が複雑になることがあります。そのため、十分な準備と正確な知識が必要です。例えば、遺産の価格について遺産分割協議書上で明確に記載をするのか、分配方法を決定した後、それをどのように協議書に表現するのか、など実務上でポイントになる箇所に触れていきたいと思います。
準備編:遺産分割協議書作成に必要な情報を整理しよう
遺産分割協議書を作成する際に、最初に行うべきことは必要な情報の整理です。まず、被相続人、相続人の確認を行いましょう。亡くなられた方の特定や分割協議に参加する相続人が誰なのかを、戸籍で特定します。戸籍の広域交付制度がスタートしましたので、最寄りの市役所で相続手続きに必要な戸籍が取得しやすくなりました。被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍、相続人の現在の戸籍など手続きを進める上で必ず必要なものがありますので、取得しましょう。次に、遺産の内容を整理しましょう。不動産や預貯金、株式、その他の資産をリストアップし、それぞれの評価額を把握することが必要です。不動産の場合、その評価額はいくつか指標が存在します。法的には遺産分割の際に使用される指標は時価評価になりますが、固定資産税評価額も実際上は使われることが多いです。不動産がある市役所で確認できますので、戸籍取得の際にはご準備いただくことをお勧めいたします。また、借入金や負債も遺産に含まれるため、これらの情報も忘れずに整理してください。これらの情報を基に、現実的で公正な分割案を考えることが可能になります。
作成段階における具体的なポイント
遺産分割協議書の作成段階において、いくつかポイントはあります。考えていただきたいのは遺産分割協議書を作成した後の用途です。具体的に財産の名義変更に使用するのか、税務申告のために税務署に提出することになるのか、すでに解約換金した財産に関して相続人間で合意内容を明らかにしておきたい、という意図なのか。分割協議書をどのように活用するかによって、注意点が異なります。一般的に財産の名義変更に利用することが多いため、その際の注意点を以下に挙げます。まず不動産に関しては不動産を特定する必要がありますので、基本的には法務局で取得する全部事項証明書(いわゆる登記簿)のとおり表記する必要があります。13桁の不動産番号を記載することでより明確に対象の不動産が特定できます。次に預金等ですが、口座を特定するために銀行名、支店名、口座番号、有価証券の場合は銘柄、口数を明確にする必要があります。遺産額については記載する必要はありませんが、記載してあっても間違い、ということはありません。他に生命保険については、被相続人が被保険者となっている死亡保険金の場合は、遺産分割協議の対象になりませんので、掲載しません。退職金、未支給年金等についても通常受取人が指定されていることが多いため、明記しません。注意点としては保険契約、被相続人が被保険者を他の相続人、親族としている保険があった場合、亡くなった日付の解約返戻金が遺産相続の対象になりますので、記載する必要があります。
専門家の視点:司法書士が教えるポイント
我々司法書士が関わる遺産分割協議書の作成は不動産の名義変更に関わるものが多いです。良くある間違えは、不動産の記載の代わりに住所を記載している遺産分割協議書があります。不動産という財産をわけるための遺産分割協議ですので、不動産を記載する必要がありますが、住所とは、行政が決めた郵便物が届くための住居表示ですので、不動産そのものを表す指標ではありません。住所を記載した遺産分割協議書では不動産の名義変更に利用できない可能性が高く、修正が必要です。また不動産登記のみに限れば、不動産を単独で相続する人が相続人でいる場合、その遺産分割協議書の捺印について、不動産を取得する方は印鑑証明書の提供、実印の押印が不要です。権利を相続しない相続人の印鑑証明書及び実印、相続する相続人については個人の認印の押印でも名義変更の申請ができます。ただし作成した遺産分割協議書に複数の不動産があり、異なる方がその不動産の名義人となる内容や、金融資産など不動産以外の財産についての取り決めがなされている内容の遺産分割協議書の場合は、名義変更を各窓口にて行う場合には必ず相続人全員の実印の押印と印鑑証明書の提供が必要となりますので、注意しましょう。
遺産分割協議書に全員の印鑑がそろわない場合
遺産分割協議書を作成し、それを使用して各財産の名義変更を行う場合、相続人全員の実印の押印と印鑑証明書の提供が必要になります。もし相続人のうち1人でも遺産分割協議に参加されない方がいた場合、その遺産分割協議は合意ができていないことになり、名義変更等に使用できません。その場合、その後、どのような方法で進めることができるでしょうか?相続人間では話し合いができない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てを行うことになります。調停は調停委員の立ち合いの元、相続人全員で話し合うことを試みる手続きです。そこにも一部の相続人の出席がない場合は、審判手続に移行することになります。遺産分割に応じてもらっている相続人がいる場合は、その相続人から相続分の譲渡を受けることで、譲渡人は遺産分割調停の対象者から外れることになりますので、手続きを簡素化することができます。相続人のうち、1名だけ合意が取り付けられない局面では有効な手段になります。
感情の整理:相続手続きで心がけるべきこと
遺産分割協議の作成における注意点について述べてきました。繰り返しになりますが、遺産分割協議は相続人全員の合意が必要な手続きです。1人でも協力が得られない場合は、遺産の名義変更や相続税の申告ができないということになります。全員の合意を得られるような話し合いを進めることが1番大切です。遺産分割を行うのは基本的に親子、兄弟姉妹など親族関係のある方です。親族と言えども生活環境や収入の差異が必ずあります。簡単に話し合いができるだろう、こんな風に思っているはずだ、という思い込みから予期せぬ感情のもつれに発展するケースがあります。一度感情のもつれで話し合いがとん挫するとなかなか個人間では元通り協議を進めることができなくなります。そうなると家庭裁判所で協議を進めていくことしかできなくなり、弁護士などの専門家に依頼すると別途専門家報酬もかかることになります。親しき中にも礼儀あり。遺産分割を行うときは正確な書類作成を行っていただくことはもちろんですが、慎重に相手に配慮した進め方をお勧めいたします。当事務所ではどのような手順で遺産分割を行えばスムーズに話ができるか、というノウハウを有していますので、お気軽にお問合せ下さい。