先人に学ぶ、人としての在り方
2026/11/02
先人に学ぶ、人としての在り方
~志と仁義礼智信~
前回、日本を再興する鍵は、経営者が社員に「人としての在り方」を伝えることにある、とお話ししました。
では、経営者は何をよりどころに、人と事業を育てていけばよいのでしょうか。
私は、その答えは先人たちの言葉と哲学の中にあると考えています。時代は変わっても、人の悩みや迷いの本質は変わりません。命をかけて生き抜いた先人たちが磨いてきた知恵は、今を生きる経営者にとって、何よりの道しるべになります。
幕末の志士たちも、皆それぞれ師を持ち、学び続けていました。吉田松陰も坂本龍馬も、佐久間象山のもとで学び、龍馬はさらに勝海舟を師と仰ぎました。志ある人ほど、師を立て、自らを磨き続けてきたのです。
私自身も、これまで陰陽五行をはじめとする東洋哲学を学び、今は綜學の林英臣先生のもとで、佐藤一斎や吉田松陰、戦国武将、渋沢栄一や松下幸之助といった先人たちの生き方に触れています。学ぶほどに感じるのは、時代も立場も違う先人たちに、共通して流れているものがあるということです。
今回は、経営者が人と事業を育てるうえで大切にすべきだと私が考えることを、先人の言葉とともにお伝えします。
■ すべては「志」から始まる
私が何より大切にしているのが、「志」です。
林先生から教わったことですが、「志」という字の上の部分「士」は、もともと「之(ゆく)」という字で、「心の行くところ」を表しているそうです。そして、心の行くところを持つ者たちを「志士」と呼びました。
吉田松陰は、「志を立てて以て万事の源と為す」という言葉を遺しています。
何のために、誰のために生きるのか。その志が定まらなければ、人生は始まりません。
これは会社も同じです。中小企業は、社員一人ひとりに「何のために働くのか」という目線を持ってもらう必要があります。そしてお客様に対しても、自社がどんな志で、社会に価値を還元していくのかを示し、実践していかなければなりません。
■ 基本こそが、仁義礼智信
武道や芸道には「守破離」という教えがあります。まず基本を守り、やがてそれを破り、最後には離れて自分の道を拓く。
その「守」にあたる、人としての基本こそが、「仁義礼智信」だと私は考えています。
現実の世界を動かすのは、仁と義です。「仁」は慈しみの心、慈愛。「義」は上杉謙信も大切にした筋を通す、嘘をつかないということ。
そして人を動かすには、言葉を発しなければなりません。だからこそ私は、「礼」を大切にしています。
「礼」相手の立場に関係なく、必ず丁寧な言葉遣いを心がけること。部下であっても、入ったばかりの新入社員であっても、その方の存在を大切にし、尊厳を尊ぶこと。礼とは、相手を一人の人間として敬う心の表れだと思っています。
■ 学ぶは、まねぶ
「学ぶ」という言葉は、「まねぶ(真似る)」と同じ語源だと言われます。
今の若い方には受けないかもしれませんが、私は「見て盗む」ことを大切にしています。教わるのを待っているだけでは、成長の速さがまったく違うからです。まずは手本となる人を徹底してまねる。自分の独自性は、そのあとから自然とにじみ出てきます。
ただし、放っておくわけではありません。まねること、見て盗むことの大切さを伝えたうえで、しっかりと支えます。もし違う考え方ややり方をしていたら、間違いを責めずになぜそう判断したのかを、がっぷり四つに組んで聴く。
これからの企業は人を育てられる企業しか生き残っていけません。人を育てる上でも、自分で育つ人間になる考え方をしっかり根氣よく伝えていくことが必要だと想います。
山本五十六の言葉として、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」が伝えられています。
素直さと向上心があれば、人は必ず成長できる。私はそう信じています。
■ 知ることと行うことは一つ
「知行合一」は、明の王陽明が説いた教えです。知ることと行うことは、本来一つである。知識は、行動するためにこそ得るものです。
この陽明学にも通じていた江戸の儒学者、佐藤一斎の『言志四録』は、西郷隆盛が座右の書としたことで知られています。一斎の門下からは佐久間象山が出て、その象山のもとで吉田松陰、勝海舟、坂本龍馬らが学びました。幕末の志士たちの行動の背景には、こうした学びの系譜がありました。
当たり前のことですが、学んで終わりにせず、行動に移す。今の経営者にも、働く人にも、変わらず大切なことだと思います。
学んだことを現実に活かすための習慣として、「氣付きと置き換え」が重要であると教わりました。
現実の自分の置かれた状況に置き換えて考えるとこんなことに活かせるな、といった自分事にする考え方です。この考え方が習慣化するとどんな局面、どんな状況でも自分の経験、智恵として成長できると知りました。
■ 陰と陽、頭と心、右脳と左脳
陰陽の考え方も大切にしています。陰陽は、どちらかが正しいという対立ではなく、互いに補い合って一つをなすものです。
私は学校教育で、正しいか間違いか、正解か不正解か、という物差しで育てられてきました。だからつい、物事を論理的に、合理的に、効率的に捉えようとしてしまいます。
けれど人には、感じる力、感情や氣持ちといった、言葉にしにくいものを受け取る力があります。頭で考える力と、心で感じる力。その両方を、バランスよく使うことが大切です。
特にこれからは、AIにはできない、人間が感じ取ることを言葉にして伝える力が問われます。
私自身、日々の仕事の中で、お客様や取引先の方に、自分が感じたことを伝えるようにしています。それも、ただ「良かった」ではなく、「このような所作を見て、このような表情をされていたので、こんなお気持ちなのだと感じました」というように、「なぜそう感じたのか」まで言葉にします。状況を説明するだけの状況説明では、人の心はつかめません。人を感動させられないとAIやロボットに代えられてしまうでしょう。「why」「なぜ」が重要です。
事務所でも、朝礼で、状況説明ではなく今感じていることと、その話から感じたことを言語化する練習を、毎日続けています。所員も積極的に取り組んでくれていることが嬉しく感じています。
■ 一事が万事 ― 在り方は、場面で切り替えられない
人の在り方は、場面ごとに切り替えられるものではないと、私は師匠から学びました。
仕事ではこう、家庭ではこう、この相手にはこう。自分では使い分けているつもりでも、それがその人自身の心の癖であり、生き方そのものになっています。
命がけで人と向き合っている人は、職場でも、家庭でも、どんな場面でもその在り方がにじみ出ます。反対に、効率よく、自分の都合のいいように人を動かそうとする人は、駆け引きの人間関係しか築けず、その人の本質が相手に伝わりにくくなります。
だからこそ、志を立てたら、その在り方を徹底して磨くことが大切です。
ただ、利害関係のある仕事の場で、いきなりそれを貫くのは難しいものです。そこで私は、まず利害関係のない場面で、自分の在り方を確立することを勧めています。たとえば、青年会や中小企業家同友会のような場、地域の活動など、お金が関わらない場面です。そこで磨いた志と在り方で、仕事の場面でもお客様と向き合うことができるようになる。これが、私が考える在り方の実践です。
事務所の朝礼の取り組みも、同じ考えに基づいています。まずは身近な仲間との間で、自分の在り方と人の話の聴き方を確立する。そして、お客様に対しても同じように聴けるようになっていく。その練習を、毎朝積み重ねています。
■ 腹が立つ相手は、自分の鏡
会話の中では、相手の方が本当に想っていること、その気持ちがどこから来ているのか、本音を読むように心がけています。
そして、人に苛立つこと、腹が立つことがあったときは、自分も同じ課題を抱えていて、それを鏡のように見ているのだと考えるようにしています。自分に噛みついてくる人がいたら、なぜその人がその話題を取り上げるのか。そこには、その人自身の課題があるのだと捉えます。
素直に受け止めることは、もちろん大切です。そのうえで、こうした見方を持っておくと、心が乱されずにすみます。
■ 経営者の「今」は長い
私は、人と関係を築くために、夜遅くまで語り合い、想いや志を分かち合う時間を大切にしてきました。かつての私は、肩書きや役割、人からどう見られるかという衣をまとい、人と素のままで向き合うことができませんでした。こうした時間を重ねることで、素直に、人間らしく人と付き合うこと、仲間をつくることを学んだのです。役割や肩書きで、表面だけの付き合いをしてしまう方は、まず人ととことん向き合う練習をした方が良いと想っています。
ただ、それは経営者の段階によって変わるとも考えています。
経営者にとっての「今」は、その瞬間だけではありません。必ずやると決めたこと、必ず実現すると決めた数年先の姿までが、経営者にとっての「今」です。ある段階に進んだら、その未来を実現し、会社を成長させ、広げていくために、時間の使い方そのものを選び直していく必要があります。
そのとき大切なのは、選ぶ理由を外に置かないことです。誘われたから行く、付き合いだから断れない。それは、電車が遅れた、タイミングが悪かった、世の中が悪い、と外のせいにするのと同じです。外に理由を置いているうちは、自分の時間も、人生も変えられません。
自分の人生の主役は自分であり、すべては自分が選んでいる。語り合う夜も、それを断って未来のために使う時間も、自分が決めて選ぶ。主語を自分にすることを、私は日々心がけています。
■ 部分ではなく、大局を見る
林先生からは、表から見る、裏から見る、自分の立場から見る、相手の立場から見る、と多面的に物事を捉えることを教わっています。そして、「部分観に陥るな」とよく言われます。
大きな時間軸、大きな目線に立ってみると、たいていのトラブルは、部分だけを見ていることから生まれています。本質を見て、大局から判断する目線が大切です。
さらに、林先生からは国是についても学びました。この国には目指すべき姿が長らく示されていないと言われます。
林先生が国是として示されているのが、「高徳国家の建設」「公益経済社会」「共生文明の創造」の三つです。
この国是の詳細はまた述べますが、今の世界の資本主義は、限界に来ていると私自身も感じています。利益や効率だけを追い求めても、その先の発展には限りがあります。だからこそ、経営者は自社の利益だけでなく、こうしたこの国の理想を見据えて経営をする必要があると考えています。先ほどお伝えした「財もお金も循環させる」という考え方も、ここにつながるものです。
■ 語るからこそ、背負う
正直に申し上げると、ここに書いたことを、私がすべてできているわけではありません。志に実践が追いついていないと感じることは、今も数えきれないほどあります。
それでも私は、志を語ることをやめません。語るからこそ責任が生まれ、リーダーとしての自覚と覚悟が定まると想っているからです。口にした志は、自分を逃がさない約束になります。
だからこそ、完璧を求めて立ち止まるのではなく、失敗を恐れずに行動し続けます。うまくいかないことがあっても、諦めずに続けます。
知ることと行うことを一つにする。その道の途中にいる自分への戒めとして、これからも挑戦を重ねていきます。
■ 結びに
時代が変わっても、人の悩みは変わりません。だからこそ、先人たちが命をかけて磨いてきた生き方は、今を生きる私たちの道しるべになります。
経営者が先人の言葉と哲学をよりどころにするとき、その在り方は社員に伝わり、人が育ち、事業が育っていく。さくら夙川事務所では、こうした在り方を、まず私たち自身が日々実践し、地域の経営者の皆さんと共に学び合っていきたいと考えています。
これからの時代、AIが台頭し「人が人であること」を体現できる人としての核、志はこれまで以上に重要となっていくと考えております。
「何のため、誰のために、生きるのか。」
その素志を確立し、人を育てられる人間、企業がこの日本をリードするリーダーとなっていくと確信しています。共にこれからの激変の日本を支え導くリーダーとして狼煙をあげ、笑顔あふれる社会を築いていきましょう。
▶ 経営指針づくり・事業承継・会社の登記のご相談はこちら【https://shihousakura.jp/contact/】
----------------------------------------------------------------------
司法書士さくら夙川事務所
兵庫県西宮市御茶家所町4-15 中田ビル2階
電話番号 :
0798-61-1451
西宮で相続手続きをサポート
西宮で事業承継をサポート
----------------------------------------------------------------------